フランス革命政府はMMTを実践していた!【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」29
◆バークと商品貨幣論
キャッシュとは「マネーが物理的な形を取ったもの」にすぎないのですから、どんな形を取るかは二次的な問題。
耐久性には難があるものの、何なら木の葉でも構いません。
アメリカでは、ドル紙幣のことを別名「バック(牡鹿)」と呼びますが、これは開拓時代、先住民との間の決済に牡鹿の皮が使われたことに由来すると言われます。
しかるにキャッシュの形態、ないし素材としては、金や銀といった貴金属がしばしば使われました。
ここから、ある誤解が生じます。
キャッシュに価値があるのは、それが「信用」を表しているからなのですが、「貴金属が素材に使われていることこそ、キャッシュの価値の根源だ」という話になったのです。
ならばキャッシュは、物理的な形を取った数字にあらず、それ自体がモノとして価値を持つ、一種の商品ということになる。
同じ素材からつくられている以上、金貨と金のブローチの間に、本質的な違いはないはず。
このような貨幣観を「商品貨幣論」、ないし「金属主義」と呼びます。
逆に「マネーの本質は信用を表す数字で、それに物理的な形を与えたものがキャッシュ」と見なす貨幣観は「信用貨幣論」、ないし「表券主義」と呼ばれる。
この場合、キャッシュは「借り」の存在を示す証拠、つまり借用書となるので「表券」なのでしょう。
経済学において、長らく支配的だったのは商品貨幣論。
すると、政府が発行できる貨幣の量にも限界が生じます。
保有する貴金属の量を超える貨幣は、たとえ紙幣でも発行することはできません。
紙幣の価値は、貴金属を使った貨幣と交換できることで保証されているからです。
エドマンド・バークも、ご多分にもれず商品貨幣論者。
『新訳 フランス革命の省察』の第十一章「武力支配と財政破綻」で、次のように述べています。
【イギリスでは、わずか一シリングの支払いであろうと、紙幣では受け取らない自由が保証されている。あらゆる紙幣の価値は、対応する金貨や銀貨の存在に基づいており、お望みとあらば、これらの貨幣といつでも交換できるのだ。】
今回の文庫版、じつは中野剛志さんが解説を書いてくれたのですが、この点が気になったのでしょう、こう断っていました。
【(注:バークが述べた貨幣観は)今日、『現代貨幣理論』によって、その誤りが指摘されている。もっとも、『現代貨幣理論』は、十九世紀から二十世紀にかけての通貨や財政の歴史を踏まえて構築されたものであり、それをバークが知らないのも当然であった。】
バークは十八世紀の人間ですから、たしかにそうでしょう。
ところがお立ち会い。
MMT(現代貨幣理論)など知るはずがないのに、フランス革命政府は信用貨幣論に基づく貨幣発行をやってのけたのです!
しかも、主観的には商品貨幣論を信奉しながら!!
なぜそんなことが可能になったのかは、次回「フランス革命と貨幣観の革命」でお話ししましょう。